変貌するブランディング

当事者ブランディング、シティプロモーション/シティセールス、その他ブランディングに関わる諸々、論文を掲載しています。

論文 - アフターコロナ時代のプレイスブランディング ― OMOによる地方創生の再構築 ―

要約

 新型コロナウイルスの感染拡大は収束の兆しが見えない。一方で,2020年4月より「第2期 まち・ひと・しごと創生総合戦略」がスタートしているが,地域づくり,プレイスブランディング活動の一環である日本各地のイベント等は悉く中止に追い込まれている。

 アフターコロナ時代のプレイスブランディングを考えるうえで,OMO(Online Merges with Offline)という考え方が示唆に富んでいる。OMOとは,企業が人々に対してオンラインとオフラインの区別なく,都度もっとも最適なチャネルで商品やサービスを提供するデジタル起点の概念であり,リアル接点を中心に据えにくいコロナ禍の社会状況にも親和性が高いものと考えられる。

 このOMOを拠りどころに,アフターコロナ時代のプレイスブランディングの四つの方向性を提案したい。1)脱行政区域,2)脱リアル,3)脱「一期一会」,4)脱税収主導の四つの「脱」である。これら提案は,プレイスブランディングに関係が深い,距離や空間性,行政/市民/ステークホルダーの関係性,地方財政のあり方などを,コロナ禍という契機をポジティブにとらえ,問い直すことをねらいとしている。

 

キーワード

アフターデジタル,シティプロモーション,地方自治体,地域ブランド,地方創生

 

Ⅰ.はじめに

 新型コロナウイルスの猛威は,いまだ収束の兆しが見えない。2020年7月時点での感染者数は世界で1,500万人を超え,日本でも3万人に迫っている(2020年7月25日時点)。

 一方,新型コロナウイルス感染拡大防止で影をひそめているものの,令和2年4月からは「第2期 まち・ひと・しごと創生総合戦略」がスタートしている。2015年から始まった第1期同様,地方経済の再生はもちろんのこと,定住人口の東京一極化を改善するための「関係人口」の拡大を新たな柱のひとつとしている。

 その推進の一翼を担うプレイスブランディング(場所のブランディング,含むシティプロモーション)活動は,新型コロナウイルスによって大きな打撃を受けている。日本各地の有数の祭事やイベントは悉く中止となり,「リアル」が基本である市民活動や行政との市民協働活動も大きくその活動に制約を受けている。行政主導の観光振興,経済振興,広報活動なども,コロナウイルス感染防止活動にその優先順位を奪われている。

 その一方で市民は逞しく,様々な方法でその制約を克服しようとする動きも見え始めている。リアルなイベント,ミーティングをオンラインによる活動に切り替えることで,対人コミュニケーションや距離や移動の障壁を乗り越えようとし始めている。

 その重要なキードライバーは,改めて「デジタル」である。今までのリアルの延長としてのデジタル活用ではなく,リアルとデジタルを区別することのない,境目のない世界を作り始めている「デジタル」である。

 そこで本稿では,コロナウイルスという外的要因をひとつの契機としてポジティブに捉え,OMO(Online Merges with Offline,またはOnline-Merge-Offline)の発想や行動原理を拠りどころに,新たなプレイスブランディング(含むシティプロモーション)の方向性について考察してみたい。

 Ⅱ章ではプレイスブランディングの現況とコロナウイルスの影響について概観し,Ⅲ章ではリアルとデジタルの関係性の変化を整理したうえで,Ⅳ章では,アフターコロナ時代のプレイスブランディングの新たな方向性を提案したい。

 その提案を先取するならば,アフターコロナ時代のプレイスブランディングの未来は,1)脱行政区域,2)脱リアル,3)脱「一期一会」,4)脱税収主導の四つの「脱」に,活路を見出せるのではないかというものである。

 なお,プレイスブランディングということばは,「場所のブランディング」を意味しているが,一般的には「シティプロモーション」や「シティセールス」と呼ばれる,地方自治体が主導する地域づくりの活動を包含している。これら定義については後述したい。

 この論考の対象読者は,主として地方自治体職員あるいは地域づくりに関わる企業や個人を想定している。また,「シティプロモーション」と「シティセールス」ということばは同義であると解釈し,ここでは,「シティプロモーション」を代表的な呼称として用いたい。

 

Ⅱ.プレイスブランディング現況とコロナウイルスの影響

1.「まち・ひと・しごと創生総合戦略」第1期から第2期へ

 はじめに,昨今のプレイスブランディング活動を活性化させる契機となっている「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の動向を概観しておきたい。

 「まち・ひと・しごと創生総合戦略」は2014年に閣議決定され,2015年が「地方創生元年」と呼ばれたことも記憶に新しい。日本全体の人口減少と東京への人口の一極集中を改善するために,地方への人口移動と地方経済の活性化を目指し,第1期は,地方への定住人口増加の過程として交流人口の増加も重視された。国からの総合戦略の提示によって,各地方自治体も独自の地域版総合戦略を作成した。しかしながら,日本全体の人口減少が進むなかで,定住人口獲得のゼロサムゲームを推進しようとする自治体も少なくなかった。

 シティプロモーション部門が各地で新設され,「ゆるキャラ」と呼ばれる地域マスコットやPR動画,地域ブランド商品開発や観光振興の諸施策も推進されたが,地方からの人口流出を止めることはできず,結果的に東京への人口集中はさらに進行した。

 そして,2020年4月からは「第2期 まち・ひと・しごと創生総合戦略」が開始された。そこでは,地域ごとに定住人口の増加を目指すことは第1期と同じであるものの,交流人口から一歩進んだ「関係人口」という新しい概念が提示されるに至った。

 「『関係人口』とは,移住した『定住人口』でもなく,」観光に来た『交流人口』 でもない,地域と多様に関わる人々を指す言葉」であり,「現状の地域との関わり」and/or「地域との関わりへの想い」の深さを重視する概念である(1)。つまり,最終的には地方への定住人口増加も射程に入るものの,その前段階として,地理的な距離や現状の関わり度合は関係なく,多様な関係づくりによって,市民と地域との関係の「深さ」を重視しようという考え方である。

 第1期から第2期への若干の軌道修正は,スポット的な観光振興や産業振興よりも,接触頻度や将来に向けた関わりの時間の長さを重視することで,地域-定住-暮らしと経済というストック的な発想からの脱却を目指そうとしているものであるともいえるだろう。

 

2.シティプロモーションとプレイスブランディングの定義

 次に,「シティプロモーション」と「プレイスブランディング(Place Branding)」という,ふたつの言葉の定義と関係性を簡単に整理しておきたい。前置きすると,「シティプロモーション」は和製英語であり,海外では一般的には使われていない。

 河井(2009)は,シティプロモーションを「地域を持続的に発展させるために,地域の魅力を地域内外に効果的に訴求し,それにより,人材・物財・資金・情報などの資源を地域内部で活用可能としていくこと」と定義した。

 プレイスブランディングに関する研究は国内では数少ないが,和田・菅野・徳山・長尾・若林(2009)によれば,「地域ブランドとは,その地域が独自に持つ歴史や文化,自然,産業,生活,人のコミュニティといった地域資産を,体験の「場」を通じて,精神的な価値へと結びつけることで,「買いたい」「交流したい」「住みたい」を誘発する」ことだと定義したうえで,「地域ブランドの構築とは,こうした地域の有形無形の資産を人々の精神的な価値へと結びつけることであり,それによって地域の活性化を図ることである」と説明している。

 若林・徳山・長尾(2018)は,別の著書で「「プレイスブランディング」とは,“分節された意味の空間”であるプレイスが,多様な人々の中に,高い密度で共有化されていくこと」と定義しており,現象学的な空間論の視点=身体性を加味したものとして解釈しようとしている。

 一方で,「シティプロモーション」は,報道内容から判断すると,多くの場合,地方自治体主導であり,その射程の違いは自治体ごとに多少の振幅あるものの,「ゆるキャラ」,PR動画,商品開発などが注目されたように,広報,産業振興,観光振興的意味合いが強い傾向にある。

 そのため,プレイスブランディングとシティプロモーションの概念の差を紐解くならば,広報,産業,観光を中心とした実利的な振興活動がシティプロモーションだとするならば,プレイスブランディングは,さらに地域に対する精神的な価値形成や身体的な愛着感醸成が加味された考え方であるといえるだろう。また,シティプロモーションの活動主体が主に地方公共団体であるのに対し,プレイスブランディングは,地方公共団体ステークホルダーや市民も加わった総合的な活動であるということもできる。言い換えるならば,シティプロモーションは,プレイスブランディングを構成する部分要素であるといえるだろう。

 

3.各自治体の対応

 また,新型コロナウイルスの感染拡大によるプレイスブランディング活動への影響を手短に確認しておきたい。コロナ禍により中止になったイベントは,イベント情報サイト「ウォーカープラス」(2)によれば,1,177件(2020年7月25日現在)であり,各地方自治体のウェブサイトにも,中止になったイベント,市民活動,市民協働事業が数多く掲載されている。

 一方,このコロナ禍で,多くの人々が集合する,あるいは対面でコミュニケーションをすることができないイベントやプロモーション活動でも,デジタルの活用によって違う形で実施する事例も現れてきている。

 長野県小諸市では,2017年からサイクリングイベント「グランフォンド小諸」を実施してきたが,2020年は中止となった。代わりに,オンラインサイクリングサービスであるZwiftを用いて「GRANFOND KOMORO feat. LongRiderStories! Enjoy Ride」を6月28日に実施。日本国内のみならず海外含め1,687人の参加があったという(3)。

 大阪府泉大津市で実証実験が始まった「まごチャンネル」は,IoTスタートアップ企業が開発した三世代の家族をつなぐサービスである。小型のセットトップボックスをテレビに接続するだけで,スマホのアプリから送られてきた写真を簡単にテレビで再生できる,主に高齢者を対象とした,コロナ禍を意識したサービスである。テレビ側で再生が始まると送信者にもそれが連絡され,離れた高齢者の見守りにも役立つという(4)。

 現時点では自治体主導であるものの,地域に縛られることのないイベントやサービスが逆境を乗り越えて芽生え始めていることも確認できる。

 

Ⅲ.アフターコロナ時代のリアル/デジタル

 この章では,アフターコロナ時代のプレイスブランディングを考えるうえでインスピレーションを提供してくれる「OMO」という考え方を概観しておきたい。

1.リアルを再構成する「OMO」

 前世紀後半以降,企業活動,行政活動とも,リアルな製品,サービス,チャネル,コミュニケーションをビジネスの基盤としつつ,デジタルでそれを補完,あるいは拡張しながら発展してきた。そのような状況のもと,新型コロナウイルスを契機として,多くの組織で「リアルをデジタルで補完,拡張」という発想やビジネスの組み立てを根本的に問い直さなければならない事態に直面している。たとえば,営業活動や社内会議のすべてをテレワーク化する,オフィスを完全撤去するなど,今までのリアル/デジタル観が根底から覆され始めている。

 一方で,市民側のデジタル環境を一瞥すると,日本におけるスマートフォン保有率は,全体では64.7%であるが,20代は93.8%,30代は92.2%と非常に高い水準である(70代は27.2%)(5)。また,ネットショッピング利用世帯割合は,平均で39.2%であるが,40歳未満では62.4%とやはり若年世代で高水準である(70歳以上では17.6%)(6)。若い世代にとっては,通信機器を使い始めたころにはすでにスマートフォンが身近にあり,家庭内では2000年にサービスを開始したアマゾンジャパンで本や日用品を買うことも日常になり始めていた。この若年世代にとっては,そもそもリアルとデジタルという区別意識も薄いなかで,成長してきたものと考えられる。

 以上のような状況下,藤井・尾原(2019)によれば,リアルの延長にデジタルが位置づけられていた時代(ビフォアデジタル)ののちを意味する「アフターデジタル」時代における重要な思考法は「OMO(Online Merges with Offline,またはOnline-Merge-Offline)」であるという。これは「オンラインとオフラインが融合し,一体のものとして捉えた上で,これをオンラインにおける戦い方や競争原理として捉える考え方」であり(Onlineが主語であることが重要),「アフターデジタルの社会では,人は常時デジタル環境に接続している状態になり,リアル行動も含めたあらゆる行動データが蓄積」されている一方,企業側の役目はリアル/デジタル関係なく,顧客が便利だと望む選択肢を提供することだという。

 また,企業と消費者の関係について,ビフォアデジタル/アフターデジタルを比べると次のようになるという(藤井・尾原,2019)。

 

【ビフォアデジタル】リアル(店や人)でいつも会えるお客様が,たまにデジタルにも来てくれる。

【アフターデジタル】デジタルで絶えず接点があり,たまにデジタルを活用したリアル(店や人)にも来てくれる。

 

 つまり,アフターデジタルの世界では,ビジネスの起点はあくまでデジタルであり,リアルは「密にコミュニケーションを取れる貴重な接点」としてシームレスに有効活用すべきであるという考え方である(図1)。この考え方は,図らずもリアルを中心拠点としない(できない,あるいはしにくい)コロナ禍の環境に非常に親和性が高いものと思われる。前述したように,新型コロナウイルスを契機としてビジネス環境を大きく変貌させなければならない状況下では,デジタル中心主義である「OMO」は,思考実験としても機を捉えたものであると考えられる。

 また,「ビフォアデジタル」である地方自治体行政にとっても,デジタル中心主義の発想で,行政サービス全般を見直してみることは,非常に意義深いものと思われる。

図1:藤井保文・尾原和啓(2019).『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』に基づき筆者作成

 

2.「一期一会」から「寄り添い」へ

 藤井・尾原(2019)によれば,このような「アフターデジタル」的な状況下では,顧客接点のあり方に関する「時間」の考え方も大きく変貌しており,企業側も「一期一会型」から,顧客と常時接点を持ち続ける「寄り添い型」の顧客体験を提供することが成功のカギだという。

 1980年代頃から「消費はモノからコトへ」といわれ続けてきたが,「アフターデジタルにおいては,「顧客体験」や「ジャーニー」という言葉を使ったほうが適切」であり,付加価値のある商品を一時的に販売するだけでなく,「継続的な価値提供を融合して初めて寄り添い型」になると説明している。つまり,「一期一会型」の,その瞬間に集中した「おもてなし」よりも,顧客にとって継続的なライフタイムバリューを最大化することが重要であると考えられている。

 「寄り添い型」の接点という考え方は,中長期的視点や継続性が必要とされるプレイスブランディングと,やはり親和性が高いものと考えられる。

 

3.三つの接点構成

 加えて,藤井,尾原(2019)は,「「アフターデジタル型の接点構成」は,(中略)「カスタマーサクセス理論」における接点の考え方である,テックタッチ,ロータッチ,ハイタッチと非常に親和性が高い」ことも指摘している。継続的な価値提供の維持のためには,1)テックタッチ:デジタル機器やオンラインコンテンツによる接点形成,2)ロータッチ:ワークショップやイベントなど,多数の人々との接点形成,3)ハイタッチ:訪問/対話等の個別対応の接点形成の三つの接点の適切な組み合わせと使い分けが必要となるであろう(図2)。地方自治体行政においても,すでに,ウェブサイト,SNS,広報誌,市民向けイベント,市民協働活動,窓口サービス等の市民接点があるが,それらコミュニケーション活動や対人サービスについてもデジタルセントリックな発想で再構成してみる必要があるだろう。

図2

 

Ⅳ.アフターコロナ時代のプレイスブランディングの方向性

 この章では,アフターデジタルの考え方を拠り所として,アフターコロナ時代のプレイスブランディングに関する四つの方向性を提案してみたい。

 前述したように,キードライバーは「デジタル」である。その中核の考え方は「OMO」であり,リアルを包含したデジタルセントリックな発想と行動である。リアル/デジタルの境目なく顧客に最適な商品,サービス,情報を提供するという考え方である。

 また,OMOに基づく顧客(行政では市民)との関係は,常時「寄り添い型」であり,テックタッチ/ロータッチ/ハイタッチという三層の接点の整理も有効であるものと思われる。

 

1.脱行政区域

 まず,はじめに,これからのプレイスブランディングは,行政区域単位に留まることのない発想で政策や施策を考案し,活動するべきではないかという「脱行政区域」の提案である。

 「第2期 まち・ひと・しごと創生総合戦略」において,「交流人口」から「関係人口」の増加にフォーカスが移ったことも考慮するならば,デジタルセントリックなプレイスブランディングとは,行政区域や近隣地域を射程とするだけでなく,国内の遠隔地域や海外さえも積極的に越境できる。そうなれば、たとえ地理的には遠隔な関係であっても,デジタルを活用した精神的な密接さが,地域の資産となっていく。「関係人口」の本質とは,そのようなものであると考えられる。近隣市区などとの連携協定に基づくサービス提供,イベント,企業連携,市民協働活動や国際間の姉妹都市活動なども,デジタル発想に切り替えることで,新しい活動の世界が開けてくるのではないだろうか。

 

2.脱リアル

 二つ目は,1とも関係が深いが,プレイスブランディングにおける「脱リアル」の推進に関する提案である。

 デジタルを起点に考えることで,障害者等,多様な人々との関係づくりが可能となるものと思われる。前述した長野県小諸市のオンラインサイクリングイベント「GRANFOND KOMORO feat. LongRiderStories! Enjoy Ride」は,リアルをデジタルに置き換えた試みであるが,東京都の「東京eスポーツフェスタ」,京都府の「京都eスポーツサミット」のほか,徳島県富山県高岡市でもeスポーツイベントが行われている。特にeスポーツイベントは,現時点では,まだリアルイベントの色彩が強いものの,今後5G回線の普及とともに,地域に関係なく,誰もが参加できるイベントに変化していくものと思われる。

 このように,人の移動を伴わない,あるいは,一定の場所に集結することを前提としないイベントや市民交流の施策が,これからのプレイスブランディングに新しい視点をもたらしてくれるものと考えられる。

 

3.脱「一期一会」

 三つ目は,行政,市民,ステークホルダーの関係を「一期一会型」ではなく,継続的な「寄り添い型」のものとして,とらえていくべきであろうという提案である。

 大阪府泉佐野市では,行政の活動に参加した場合などに付与される行政ポイントと地域の商店などでもらえる地域通貨ポイントを「さのぽ」として統合し,市民にはICカードを発行,このポイント流通に関するデータを地域経済の活性化に役立てようとしている。このことは,行政,市民,ステークホルダーである商店などが,一体となってつながり続け,地域を盛り上げようとする試みであると理解できる。

 この結節点になっているのもデジタルである。タブレットICカードスマホ,アプリ,キャッシュレス決済などの連携によって,「一期一会」ではない,行政,市民,ステークホルダーの継続的な関係づくりを形成しようとしているものであると考えられる。このようなデジタルプラットフォームは,今後もさらに,中長期的なプレイスブランディングの基盤形成に重要な役目を果たすであろう。

 

4.脱税収主導

 最後は,デジタルによる財源確保に関する提案である。現在の地方自治体の歳入とは,税収と国からの地方交付税交付金が主な財源であるが,それらから「脱」とまではいえないまでも,今後はさらにデジタルを活用した独自の財源確保の重要性が増していくものと考えられる。ただし,この領域はすでに進行しているものも少なくない。ふるさと納税クラウドファンディングなども活況を呈しており,独自の収益確保に成功している自治体も散見される。また,奈良県生駒市では,民間求人サイトと組んで「収益確保担当」を民間企業から採用するなど,積極的にデジタル主導の財源確保を目指している様子が伺える。

 ふるさと納税が,マスコミでも大きく取り上げられてきたように,財源確保に関する活動は,財政収支のみならず,大きくプレイスブランディングにも影響を及ぼす。そのような報道だけでなく,オンラインにおける行政,市民,ステークホルダーのおかねに関する接点は,ブランドマネジメントの観点からも今後さらに注視すべき領域となっていくものと思われる。

 

Ⅴ.おわりに

 新型コロナウイルスの出現による社会のデジタルシフトが急速に進んでいる。テレワークに代表されるようなこの変化を上手くプレイスブランディング(あるいはシティプロモーション)に生かせないか,あるいは,プレイスブランディングのあり方も変わっていかなければならないだろうと考えたのが,本稿の発端であった。

 プレイスブランディングと関係が深い,距離や空間性,行政/市民/ステークホルダーの関係性,地方財政のあり方などを,コロナ禍をきっかけとして,デジタルセントリックなフィルターで見つめ直してみることで,何か新しいビジョンやアイデアが見えてくるのではないかと考えている。

 前章での提案はあくまで方向性の提示のみであり,それぞれの領域での予兆を多少なりとも紹介したものの,今後,どのように発展,定着していくかについては,中長期的に見守りたい。

 いずれにせよ,われわれは,新型コロナウイルスによって,「前例にならえ」で済ませていたことについて、大きく発想の転換を迫られている。この機をポジティブにとらえ,拙論が今後のプレイスブランディングの方向性を考えるうえでのヒントのひとつになれば幸いである。

 

 

(1)関係人口ポータルサイト総務省

https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/about/index.html

(2)ウォーカープラス(株式会社KADOKAWA

https://www.walkerplus.com/

(3)PR TIMES

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003116.000014827.html

(4) PR TIMES

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000076.000015422.html

(5)総務省,平成30年通信利用動向調査の結果

(6)総務省,2018年家計消費状況調査の結果

 

引用文献

河井孝仁(2009).『シティプロモーション-地域の魅力を創るしごと-』東京法令出版

和田充夫・菅野佐織・徳山美津恵・長尾雅信・若林宏保(著)電通abic project(編)(2009).『地域ブランド・マネジメント』有斐閣

若林宏保・徳山美津恵・長尾雅信(著)電通abic project(編)(2018).『プレイス・ブランディング:“地域”から“場所”のブランディングへ』有斐閣

藤井保文・尾原和啓(2019).『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』日経BP

 

※なお、この論文は、2020年「日本マーケティング学会」「日本ブランド経営学会」向けに書かれたものです。