変貌するブランディング

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シティプロモーションの目的を見直してみる

 前回、シティプロモーションのふたつの方向性について示してみましたが、今までの話を踏まえて、ここで一度整理してみたいと思います。
 まず、シティプロモーションの本来的な目的ですが、現時点で私はこのように考えます。


【シティプロモーションの目的(広義)】
市民にとって地域をよりよい場所にするために、行政、市民、ステークホルダーが一体となって、魅力ある人財、場所、モノ、出来事を、発掘あるいは新たに創造し、その情報や体験を市内外に効果的に共有すること。また、それらの活用を通じて、地域の政治的・経済的持続と発展に関与すること。


 ただし、前回書いたように、「街のセリングポイント開発」を行うかどうかは大きな分かれ道であるので、その業務を含まない意向であれば、次のように下線部を除外するのが適切だろうと思います。


【シティプロモーションの目的(狭義)】
市民にとって地域をよりよい場所にするために、行政、市民、ステークホルダーが一体となって、魅力ある人財、場所、モノ、出来事に関する情報や体験を市内外に効果的に共有すること。また、それらの活用を通じて、地域の政治的・経済的持続と発展に関与すること。


 目的設定の核心部分は「市民にとって地域をよりよい場所にする」ことであると考えています。そのために、積極的なコミュニケーション活動や街の魅力の発掘や創造を行うべきです。定住人口の増加はその結果のひとつにすぎず、それ自体を目的とするのは適切でないと考えています。定住人口の増加とは財政的な意味での「歳入増加」とほぼ同義であって、そこには功利的な目的意識しか感じられません。もちろん、健全な自治体経営を維持するためには健全な財政基盤が必要ですが、定住人口は目標値のひとつとして設定することはあったとしても、それを目的とすることは市民オリエンテッドな視点に反しているように思います。
 「市民にとって地域をよりよい場所にする」とは、やや抽象的な表現に感じられるかもしれませんが、ここでいう「地域」とは、行政区域としての都道府県、市町村を指しているものでもありません。もっと開かれた意味での「地域」です。時には県境、市境を越えた意味での「場所」を意味しています。同様に「市民」という表現も「市内に住んでいる人」ではなく、汎用的な意味での"citizen"を指しています。
 「よりよい場所」とは、居住、自然、就労、産業、医療、子育て、教育、高齢者、防災・防犯等を取り巻く諸環境が「よりよい」地であることを意味しており、そのきっかけづくりやアクセルをかけるためにシティプロモーションが活用されるべきだと考えています。

 この目的設定に基づいて、シティプロモーションの業務内容を改めて整理してみると、次のようになるものと思います。事務分掌にも反映できるよう整理してみます。


【シティプロモーションの業務内容】

◆ブランド管理領域

・ブランド戦略立案(ブランドブック作成等業務)
・ブランドガイドライン作成・管理(ロゴマーク、ブランドメッセージ、マスコットキャラクター等運用のガイドライン作成と運用管理業務)

◆コミュニケーション領域

コミュニケーション戦略立案(コミュニケーション戦略立案業務、及びマーケティングリサーチ等含む分析業務)
・広報活動(報道各社への情報提供と対応業務、及び市民・ステークホルダーへの情報発信業務)
・宣伝・イベント活動(市民・ステークホルダーへの宣伝業務、イベント業務)
・デジタルコミュニケーション活動(ウェブサイト、SNS等管理業務)
・広聴活動(市民からの手紙・メール等の管理業務)

◆セリングポイント開発領域

・産業振興(街の特長となる商業活動の発掘・創造業務)
・観光振興(街の特長となる観光資源の発掘・創造業務)
・市民協働(街の特長となる市民協働活動の発掘・創造業務)
・企業誘致(雇用機会創出、街の産業育成等に寄与する企業誘致関連業務)
◆その他
・内外調整(部門をまたがる事業遂行、及び外部組織との調整業務)

 

 上述のブランド管理領域の業務については、コミュニケーション領域の業務とともに行われるべきものでありますが、本来の業務種別では独立したものであるため、「ブランド管理」と「コミュニケーション」を便宜上分けて記述しました。
 また、セリングポイント開発、すなわち「街の売り」の開発に関しては、何事もそうですが、ゼロから創造することは資金も労力もかかりますので、まずは「発掘」(マイニング)から始めるのが基本だと思います。ただし、あまり既存資源の歴史や諸要因に縛られすぎるならば、心機一転、新規事業を開発するのももちろんアリだと思います。特に「シティプロモーション」という歴史の浅い部門ならば、過去のしがらみなく庁内でも提案、活動できるのではないでしょうか。そういった利点をある意味「あざとく」有効活用することもオススメしたいと思います。