変貌するブランディング

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行政における差別化戦略とは?

 

 前回記事「戦略」立案する(あるいは見直してみる) で、戦略立案の大まかな流れを示してみましたが、これは「競争」や「戦い」という要素が含まれていません。

 通常、民間企業のマーケティングでは独占市場というものはほぼありませんので、戦略立案時には同じカテゴリーの競合商品、それを提供している競合企業の存在などを考慮しなければなりません。以前「定住人口の拡大」は目的として正しい? でも指摘しましたが、定住人口を増加させるとしたら、近隣市町村は、いうなれば「敵」になるわけです。企業の発想に従うと「○○市から○万人」「○○町から○千人」というように競合市町村を設定し、そこから人口を奪取することが必要となるわけですが、そこまで明確なマーケティング戦略地方自治体では見た記憶がありません。

 私が働く四街道市でも、おおよその戦略ターゲットエリアは示していますが、どこの市町村から何人移住させる、そのためにどのような施策で…というところまでは示していません。

 自治体のイメージ形成や行動誘導を図る場合についても、戦略上の「競合」発想を必要とする場合があります。前回示したように、行政の提供するサービスや様々な活動によって獲得すべき、市民に対しての「期待する気持ち(expected perception)」、「期待する行動(expected action)」、「期待する経験(expected experience)」を設定する場合、時として競合市町村との差別化が必要となる場合があるでしょう。

 台所用中性洗剤でも、A商品が「汚れがよく落ちる」ことを強調した場合、B商品は「手にやさしい」ことを強調し、C商品は「泡切れがいい」ことをアピールするようなことです。これを差別化戦略といいます。ただし、多くの経済学者、社会学者、哲学者なども指摘するように、現代社会では差別化の対象となる差異も微細になりつつあります。つまり、差別化したくてもあまり差異がないということです。哲学者はその状況を「差異果て」と巧みに表現しています。

 かくいう四街道市でも「ひと、みどり、子育て」をビジョンに掲げていますが、近隣市町村と差別化できているのかといえば、そうでもありません。多くの自治体が「子育てにいい街」を強調しています。東京近郊のベッドタウンであれば当然の成り行きです。

 様々な市場の発展途上期には差別化戦略は有効に機能すると思いますが、成熟しきった市場や日本の人口のように縮小していく市場(もちろん正しくは「市場」ではありませんが)では、かならずしも差別化できるとは限りません。

 つまり、戦略立案の過程では、競合市町村との戦いを想定することは必要ですし、そのための戦略のオプションとして「差別化」することも、時には必要でしょう。ですが、大きな差異がないのにもかかわらず、むりやり差別化しようとしすぎると、的外れなポイントにこだわりすぎてしまうことも往々にしてあります。

 最終的には戦略の方向性の是非は「市民にとって有益か否か」であると思います。他市町村を競合者と考え、戦いを挑むことが市民にとって有益と考えるならば、それはそれでアリだと思います(泉佐野市のふるさと納税への姿勢が示すように)。また、無理に差別化を狙うのではなく、他自治体とのパリティ(同等化、同質化)を目指す戦略も選択肢としてはアリです。

 民間企業でもふたこと目には「どこで差別化するの?」という人がいますが、今の世の中ではそんなに美しく差別化できることは滅多にないことも心得ておくべきです。また、差別化のポイントが競合と比べた時に優位であるのか、また市民に求められていることなのかを検証することが大切です。

 そのことよりも、シティプロモーションを通じて、既存市民の街に対する愛着をいかに高めるか、市外市民にとってこの街がより魅力的に映るためにはどうすればいいのかを、原点に立ち戻って考えることが戦略立案には肝要であると思います。

 

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