変貌するブランディング

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地域ブランディングとタッチポイントの関係

 行政のシティプロモーション、広い意味では地域のブランドやブランディングについて考える時、同時に視野に入れておかなければならないのは「タッチポイント」に関する視点です。
 「タッチポイント」とは、その名の通り、消費者、市民との「接点」を意味します。「コンタクトポイント」とも呼ばれます。すぐに思いつくのは、民間企業では店舗やウェブサイトかもしれませんが、そこで働く社員そのものや広告など、挙げれば数多くのタッチポイントがあることがわかります。
 先に述べたように、地域のブランドをブランドブックなどで規定してみたとして、それを市民やステークホルダーに対してどんなタッチポイントで伝達するのか、その視点が必要だということです。
 民間企業の場合は、比較的シンプルです。規定されたブランドの考え方は、例えば商品開発や店舗運営の考え方に反映します。また、ロゴのデザインやブランドメッセージは、身近なところでは商品そのものに刻印しますし、宣伝や販促活動でも一貫して使用されます。サイズの大きいものでは社屋や店舗のサインにも使われる一方で、小さいものでは名刺や名札などにも使われます。
 一般的な企業のタッチポイントについて、図1で示してみましたが、ここで大切なのは、どのような種類のタッチポイントがあるかを総合的に把握することと、そのなかでの優先順位を見極めることです。このことは、地域のブランディングでも同様です。
 商品、店舗、コールセンター、広報、広告等々のタッチポイントがありますが、私が勤務していた携帯電話会社では、携帯電話のハードウェアそのものや料金設定がブランディングにもっとも影響を与える一方で、テレビコマーシャルなどの広告の関与度は意外にも低いと判断していました。

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図1

 市民からみた行政のタッチポイントについては図2に示してみました。

 地域のブランディングは行政だけでリードできるものではないことは、また改めて別の機会で述べたいと思いますが、ここでは行政が関与できる主なコンタクトポイントを列挙しています。

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図2

 タッチポイントの総合的な把握と優先順位づけが必要な理由は、予算の分配やロゴのデザインなどに影響するからです。影響度が高いタッチポイントに予算をかけるのは、やはり妥当でしょうし、説明もしやすいでしょう。

 ロゴやブランドメッセージを作る際は、広報誌や名札などの小さいツールがメインであるならば、小さくしても認識できるデザインにしなければなりません。また、モノクロ使用があるならば、多色でなければ表現できないデザインは不向きでしょう。

 ブランドメッセージもその背景説明なしで表現しなければならないような使い方が前提なら、メッセージの作り方も違ってきます。つまり、それ単独でも理解できることばで組み立てた方が適当でしょう。

 行政が多額を投資して作成しているシティプロモーションのキャンペーンロゴやブランドメッセージを見ていると、その使い勝手を想定しての作り方になっているのか、時折、疑問を感じることがあります。極端にいうならば、そのロゴやブランドメッセージを使用するメディアやツールの予算が十分でないならば、ロゴやメッセージの作成だけに多額を投資するのは適当ではないということです。

 私も広告業界が長かったので、デザインやメッセージづくりに小さくはない費用がかかることはわかっています。クリエイターには基本的に敬意を払いますし、安価なデザインは、大方「相応」であることも知っています。ですが、民間企業がブランドやブランディングに多額の費用をかけるのは、商品、店舗、広告など、実際に展開する場がある前提だからです。

 これと同じことを行政が行ったとして、そのロゴをどこに使うのか、そのメッセージをどこに掲載するのか、それらはきちんと市民に到達するのか、それらのことを総合的に判断する必要があります。そういった意味で、ブランドづくり、ブランディング活動、タッチポイントは分離することなく、総合的に考える必要があるということです。