変貌するブランディング

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シティプロモーション施策の立案と実行-新規施策へのチャレンジ(4)

 以前、私の職場でこんな論争がありました(若干恥部をさらすようですが…)。

 ある成果物のデザインをめぐって、そのクオリティがあまりにも低かったため、私は「こんなクオリティの制作物は認められない」と言ったところ、担当課の課長は「私の立場としては、期限内で予算内に事業執行できればいいんです」と返答されました。つまり、デザインのクオリティについては関係ないのだということです。

 私は「限られた予算のなかでベストを尽くすのが管理職の仕事だと思う」と反論しましたが、この担当課長の発言はある意味行政の仕事のあり方を象徴的に表わしているように感じました。

 シティプロモーションの事業についても同様です。広報活動をする、イベントを実施する、PR動画を作る等々、期限内に予算内で執行すれば「やりました」と言えるのが行政だと思いますが、同じ予算のなかでも、どのようなプランを立て、どのようなディレクションを行い、どのような協力者(事業者)と共に事業を作り上げるのかによって、最終的なアウトカムのクオリティはまったく異なるものになってきます。

 その業務フローのうち、今回は、特に事業者探索とディレクション=仕様書作成につい触れてみます。これらは非常に大切です。いいソリューションは、やはりいい事業者が持っている場合が多いということです。

 私の経験で申し上げると、事業者に関して特別な情報収集を行っているわけではありません。基本的に(1)ネット検索、(2)展示会での情報収集、(3)知人からの情報収集等、地道な探索を行っています(前回記事も参照ください)。

 (1)ネット検索の良し悪しはキーワード次第です。「イベント 集客 ファミリー 効果測定」など、目的やターゲットに即したキーワードをきちんと押さえたうえで検索すれば、かなりの確率で適切な事業者候補が見つかります。なぜならば、質の高いサービスを提供する事業者はSEO検索エンジンに対する自社サイトの最適化)やウェブでの情報提供をきちんと行っているからです。検索上位企業が間違いないとは言いませんが、少なくとも上位表示される実績があったり、何らかの工夫をしているはずです。

 (2)展示会での事業者探索については前回記事でも述べたように「百聞は一見に如かず」です。ネット社会は何でも検索できて、何でも知っているような錯覚に陥りやすいですが、多忙な毎日を送っているビジネスパースンは、意外にも自分に近い世界の情報ばかり触れがちです。それに結局は対面で話す方が情報量が多いため理解も深まります。日常とは少し角度の違った情報収集方法を採用するのも得策です。

 (3)知人からの情報収集も大切です。ネットワーク社会では「知っている人を知っている」ことが大切です。自分自身で持っている情報量は限られています。そのため、このことだったら「誰が知っているかを知っている」「知っている人がどこにいるかを知っている」ことが何よりも意義があります。ただし、これは短時間ではなしえません。普段から組織外のネットワークを築く、多くの民間事業者の知り合いを持つ、友人を持つなどの蓄積が必要です。

 このような手法で適切な民間事業者を見つけたとしても、ひとつ厄介なのは入札やプロポーザル参加のための名簿登載が必要な場合があるということです。いくらいい仕事をしそうな事業者がいたとしても、名簿登載がないために入札に参加してもらえないなどの事態があっては意味がありません。私の場合は、いい事業者を見つけたら、名簿登載の手続きをしておいてもらうよう事前に促しておきます。

 また、プロポーザルの募集にあたっても、もちろん公平性は担保しながらも、提案募集の情報提供を個別に行うこともあります。民間企業は、行政の提案募集についてマメに情報収集している場合もありますが、現実的には情報収集しきれていません。なので、いい提案をしてくれる可能性が高い事業者については、時に提案を促すことも必要であると思われます。少なくとも「ただ待っている」だけでは、いい提案は降ってきません。これは間違いありません。

 加えて、何よりも仕様書の的確な設計が大切です。

 仕様書は、単に提案してもらう成果物のスペックだけ書けばいいわけではありません。納入期限、全体予算、成果物の形状や数量等々、そのような情報のみでは不十分です。

 私がディレクションしたPR動画の制作依頼仕様書では、一本当たりの秒数(60秒程度と指示)、アウトカムであるところの動画の視聴数目標も30万回と指示しています。つまり、制作だけではなく、視聴してもらうためのメディアプランも要求しました。動画の秒数については、ユーザーの動画1本あたり視聴時間を参考としました。30万回の視聴数は他自治体の動画制作予算と実績に基づいて、多少の高望みも含めて設定しました。視聴回数の目標も支持することなく、闇雲に動画制作に臨んでも、誰も観てくれるわけはありません。

 具体的に、どのような項目を仕様書に織り込むかというと、

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  • 目的
  • 目標(できるだけ定量的な目標)
  • キーメッセージ
  • 期待するパーセプション(心理変容)
  • 期待するアクション(行動変容)
  • 効果測定方法
  • その他、仕様で死守したい項目
  • ・・・

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 などをきちんと提示しながら、いわゆる「仕様(基本スペック)」を指示することが必要です(「期待するパーセプション」、「期待するアクション」については、「シティプロモーション施策の立案と実行-新規施策へのチャレンジ(1)」も参照してください)。

 適切な仕様書が書ければ、成果の半分は保証されたようなものです。結果が出ないと事後的に嘆くのは、ほぼ発注者である我々自治体側の責任です。

 動画が視聴されない、イベントに集客できない、ウェブサイトに誘導できない等々は、それを司っているシティプロモーション部門の企画依頼時、発注時の責任が大きいと思います。

 また、効果測定方法を事前に計画しておくことも大切です。目標数値を定めるとともに、それをどのような方法で実績測定するのかの方法をも指示しておく、あるいは事業者にその方法を求めることが必要です。イベントなどの参加者数やパンフレットなどの配布数なども、デフォルトで測定方法がないならば、予算内で測定手法をまかなうことも必要です。きちんと測定しておけば、議会に対しても、市民に対しても、的確に成果説明ができるはずです。

 冒頭で示したように「期限内に予算内で執行すればいいんです」は、もう終わりにしましょう。

 

まとめ:

  • 事業者探索は、(1)ネット検索、(2)展示会での情報収集、(3)知人からの情報収集などを組み合わせて行う
  • 質の高い事業者については、入札時に困らないよう名簿搭載するよう促しておくことも必要
  • 提案募集の際には、公平性を担保しながらも、時に事業者に対して情報提供も必要
  • 「仕様書」については、目的、目標(できるだけ定量的な目標)、キーメッセージ、期待するパーセプション、期待するアクション、効果測定方法などをきちんと指示すること
  • 成果が上がらないのは発注する自治体側の責任が大きい